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ある死神は
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あの青空に祈りを捧げ 第3話


俺は彼女の座る車椅子を押している。

「ここ左です。次は右で――」

そんな感じで彼女に案内されながら俺は車椅子を押していく。

彼女が言うにはこの辺の病院に入院をしているらしい。何故入院しているかは聞かなかったし、教えてももらっていない。


「あれが、あたしの入院している病院です」

彼女は指をさした。その方向には大きな建物が建っていた。この辺にはあまり詳しくないのであんなところに病院が存在しているとは知らなかった。

「結構立派そうですね」

「外面だけですよ。内面は静か過ぎるし、食事はあまり美味しくないし、ずっと寝ているように言われるし……実は、今日も勝手に抜け出してきたんですよ」

「そんなことして、いいんですか?」

彼女は微笑みながら言っているが俺はそれを聞いて驚いた。

「もちろん駄目ですよ。けど、いつも寝てばかりじゃあつまらないですよ」

「……そうですよね」

俺は少しうらやましかった。しかし、寝てばかりというのも確かにつまらない。

……そして、沈黙。


進み続けること十数分。病院の門の前までやってきた。正面に少し歩くと病院内への入り口となっている。

『橘病院』

この病院の名前らしい。俺は車椅子を押しながら門の中へ入った。午前中のせいかあまり人の姿は無い。

「ここまででいいですよ」

彼女は俺の方を向いて言った。

「病室まで送りますよ」

「いえ、その……」

彼女は何かを言いたそうだった。その時、俺は突然、車椅子のグリップを持つ右手を弾かれた。俺は弾いた手の主を確認した。

「あなたは誰なの?」

俺の手を弾いたのは中年のおばさんだった。強気の口調だ。そして、俺の事を睨んでいる。

「俺は彼女の本を――」

「そうね、わかった。優衣を連れ去りに来たのね、そうなのね?」

俺の話をまともに聞こうとせずに何を言っているんだこのおばさんは……

「優衣。いきましょ」

おばさんは無理矢理車椅子のグリップを俺から奪い、睨みながら病院の方へ向かっていった。彼女を連れ去っていったのはおばさんの方じゃないか!

一方、彼女は申し訳無さそうに俺の方を見ていた。そして、彼女は手で何かの合図を送っているようだ。

『5……1……2……』

そう読み取れる。おばさんは彼女に気がつき、体を前に向けさせる。その後、病院建物の中に入って行き、姿が見えなくなった。俺一人残された。

その喪失感と共に大事な事を思い出した。

「あ……学校……」

病院の時計を見ると9時をとっくに過ぎていた。
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AMaRo Project. 2014