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ある死神は
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あの青空に祈りを捧げ 第22話


俺は握手をした手を離して、彼女の元まで寄ってヒソヒソ声で聞いてみる。

「あの子とはどういう関係なの?」

彼女も俺に合わせてヒソヒソ声で答える。

「あの子は『柴 叶音(しば かのん)』ちゃんっていいます。隣の病室で、3ヶ月くらい前に会ってそれから、橘病院は子どもの人数が少ないせいかよくあたしの部屋に来るようになったんです。それで、『お姉ちゃん』って言われるようになって……」

「けど、ここに数日連続で来てるけど俺は初めて会ったんだけど……」

「叶音ちゃんは見ての通り目の病気で、最近手術をしたんです。その間はずっと、寝ていたみたいなので、颯太さんとは会わなかったんだと思います。ここだけの話ですが、叶音ちゃん。まだ寝てなきゃいけないのに、抜け出してきたみたいなんですよ」

「そうなんだ……って、駄目じゃん」

気が付くと、少女……叶音は俺達の目の前にいた。

「ねぇ、お姉ちゃん? 何で、お兄ちゃんは敬語を使ってないのにお姉ちゃんは敬語を使ってんの? ボクとみたいに、普通に会話してみてよ」

叶音は自分の事を『ボク』と呼ぶようで……。にしても、生意気な奴だ。そして彼女は少し動揺をしていた。

「……そうだよね。けど、また今度ね」

叶音は「え~」とブーイングをしていたが、すぐに諦めたようだ。

「それで、お兄ちゃんは何て名前?」

……ムカつく。男だったら絶対蹴り飛ばしてる。けど、(一応)彼女の友達だしここは我慢だ。

「俺の名前は『多賀 颯太』だ。まぁ、よろしく頼むよ」

「うん、よろしくね。颯太」

叶音は相変わらず嬉しそうだった。しかし、いきなり、呼び捨てって……俺も落ちぶれたもんだ。

「うおぉい! 叶音!」

ドアのほうから、とんでもない怒鳴り声が聞こえた。知兄貴だった。

「先生!?」

彼女は口に手を当てて、驚いた。

「知……大谷先生?」

俺は、知兄貴との関係を知られないように名字でしかも先生をつけて言った。正直、叫び声にはビビッた。

「げ……先生だ……」

包帯少女・叶音は知兄貴の方を向いて、驚愕していた。終わったな。

「勝手に抜け出しやがって。晩飯抜きだぞ」

「それはカンベンして~」

一瞬の出来事だった。知兄貴は叶音を拉致って(正しくは片腕で抱えて)部屋から出て行った。静かになった。それはそれで寂しいものだった。

静寂が続いた。壁に寄りかかる俺のすぐ横のベットには彼女がいる。静寂といいつつ、隣の部屋からは叶音と知兄貴の叫び声らしき音が聞こえてくる。思わず俺は吹き出してしまった。

「本当、叶音って元気な奴だな」

「そうだね」

……え? 彼女が俺に敬語を使わなかった事に驚いて、彼女の事を見た。彼女は俺の事を見ていた。

「お、おかしかったですか?」

彼女は赤面していた。

「いやいや、ちょっと驚いただけ。全然おかしくはないよ」

「よかった」

そして、彼女は微笑んだ。そういえば……俺は、足元においてあった自分の鞄を開けて小説、いや、ラノベを何冊か取り出した。結構有名な作品のそれぞれ第1巻を持ってきた。

「約束どおり、持ってきたけど……読む?」

俺はラノベの山を彼女に差し出した。彼女は受け取って、嬉しそうに笑った。

「是非読みたいな。ありがとう」
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