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神サマの忘れ物
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突出幼心あくりょうちゃん
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せくすちぇんじッ!
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俺が我が家にやってきまして……。
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小説(二次創作)
メルト
1

ある死神は
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せくすちぇんじッ! 第3話


   *

「やっと終わったかー」
 教室の廊下側、前から三番目が俺の席である。
 体育館でのすべての作業を終え、教室に戻ってからの担任による無駄話が終わって放課後へとなった。
「東條は帰らないのか?」
 机に突っ伏していると、後ろの席の一田が声をかけてきた。
 面倒ではあるが、身体を起こして彼の方へと視線を向ける。
 すでに荷物を持って今にも帰るというところだろうか。
 なお、教室には僅かな生徒が雑談に興じており、ほとんどの人間は部活や帰宅をしている最中であろう。
「俺はもう少ししたら帰るわ」
 なれない力仕事をしたものだから、少しだけ腰が痛い。
 そんなことを言ったら、一田に馬鹿にされそうだから黙っておく。
「そうか……あ、そういえば」
「あんだ?」
 急いでいるみたいだったが、突然荷物を自分の机の上に戻して席に着いた。
「お前、さっき女子と会話してただろ?」
「ああ、それがどうした」
 名前は聞かなかったが、一田でさえ知ってる人物なのか? もっとも、一田が女子と仲良くしてるところなど見たことないがな。
「お前は目をつけてたみたいだがな」
「つけてねーよ」
 何を勝手に言ってやがるんだ。
「アイツはやめておいた方がいいぞ」
「なんでだよ」
 別に目をつけているわけではないが、会話をしたばかりの人間が悪く言われるのは流石に納得がいかない。
 教室からは一人、また一人と抜けていく。雑談も一息ついたから帰るというところだろう。
「いや、な。アイツは女子グループに入ろうとはせずに、一人で孤立してるんだってよ」
「だからなんだよ」
「標的にされやすいのはそういう孤立した奴だろ? そんなのと付きあってみろ。お前も標的だ」
 指を向けて、真剣な表情で言ってくれる。
 だが、それだけの理由で止めるというのはどうなんだ?
 俺を心配してくれてのことだから、一田のことは悪く言えないが、それでも……。
 女子のことはよくわからない。でも、そいつと友達になりたくて、なっちゃいけないのか? よくわからねぇ。
「まあ、頭の片隅には入れておくわ。で、なんでそんなことを知ってんだよ」
「オレだって、知り合い全部が男じゃないってことさ。今日もこれから、女の子と会ってくるし」
「……そうか」
 一田にもそういう関係の知り合いがいるんだな。
「って、東條?」
「なんだよ」
「お前は悔しくないのか?」
「何がだよ」
「オレが女の子と会うというのに、な!」
「別に」
「そうかいそうかい。じゃあ、オレは楽しんでくるからな。じゃあな!」
「あ……おい!」
 最後は言うことだけ言って、嵐のように去って行きやがった。
 さて、アイツは俺にも女の知り合いを作れというのか、作るなというのかよくわからない。
 ……確かに、彼女がいても楽しいのかもしれない。
 でも、いなくてもそれはそれで楽しいんだぞ?
「ということで、俺も帰るか」
 荷物を持って、教室を出る。
 なんだか、外が騒がしい気がするがきっとなんでもない。


「オイ、兄ちゃん。ちょっと面かせや」
「……はい?」
 なんでもなくはなかった。
 昇降口から出てみれば、校門に幾人かの存在が目に入った。
 バイクに乗ったイカニモな人たちで、今から下校する者は皆、顔をうつむかせて足早に脱出をしている。
 これから学校を出ようとする者はまだ少なからずいるし、それに紛れていけば何事も無く学校を出れる。そう思っていたのであるが……。
 残念ながら、絡まれてしまった!
 ゴツいバイクにフルフェイスのメット、服装はまるで世紀末を感じさせ、できる限りお近づきにはなりたくない格好をしているのが六人ほど。
 そのヘルメットから覗く眼光は俺を逃してはくれない。
 逃げようもんなら噛み砕かれて死んでしまいそうだ。もっとも、その前にバイクに轢かれて死んでしまうそうだがな!
 なんとか、絡まれなかった生徒らは一瞬だけ視線を向けるがすぐに逸らしてさらに足早に逃げていってしまう。なんと薄情な奴らなんでしょう!
「なあ、兄ちゃん。この学校に小生意気な女の生徒会長がいるらしいじゃねーか」
「女の生徒会長?」
 木刀を片手に、リーダー的な雰囲気を醸し出すとともに、俺に絡んできた一人が尋ねてくる。
「そいつにな、オレの可愛いツレがコテンパンにされたと聞いてな。一つお礼をしてやろうかと、遥々県を超えてやってきたんだ」
「は、はあ……」
 わざわざ、集団で県を超えてくるとはご苦労なこっちゃ。
「だからな、ちょっとそいつを連れてこいや。そうすれば、兄ちゃんには手出ししないからよ」
「それが……ですね」
 どの学校にも生徒会長はいるさ。
 いるんだけど、この東高校の生徒会長は暴力やら争いやらとは一切無縁な超平和主義者だ。
 女でもなければ、コテンパンにもするわけがない。
「学校を間違えてませんかね……?」
「アア?」
 うわ、鋭い眼光が物理的に破壊できそうな眼光へとパワーアップしそうだ。
 どうやって、この状況から逃げるか……。
「ウチの学校の生徒会長は男でして……」
「オトコだと!?」
 ……。
 絶対、男だ。少なくとも、今年度は男だ!
 リーダー格以外にも、取り巻きまで俺を見る目が恐ろしいことになっている感覚すらある。
 早く、話を終えて帰りたい。
「た、多分、隣の南高校と間違えてるんじゃないですか? なので、俺はもう無関係ですよね?」
 後ずさる。かろうじて、背後――学校の敷地側には誰もいない。
「オイ、待てや」
「……ッ!!」
 後ずさった以上に、奴らは近づいてくださりやがる。
「今、南っツッたか!」
「え、ええ……」
 足がガクガク、声もブルブル、一瞬でも油断したら完全に崩れてしまいそうだ。
「オレらが用あんのは、南高だったわ。こんな薄汚い学校じゃなかったわ」
 じゃあ、あんたらの学校はもっと綺麗なのかよ。
「だから、兄ちゃん。案内しろや?」
「え……俺?」
 場所まで知らんから。電車で二つか三つくらい行ったとこまでしか知らないんで。
「そうだ。兄ちゃんが男であることを後悔するんだな! 姉ちゃんだったら、ここで開放してたのによ!」
 んな、理不尽な。
 こんな雰囲気にはもう耐えられない。
 油断してるだろうし、後ろはがら空き。
「あの……すんません!!」
「あ……逃げるんじゃねェ! 追え!!」
「ヒッ……うわああああああ!!」
 そして、俺は逃げ出した。
 ご丁寧に自身の足で追ってきてくださっているので、校舎の周りをジグザグと走って、裏山へと逃げてしまおう……流石に、敷地内は俺の方が詳しいはずだからな……。


 バイクに乗ってばかりいるから運動不足だったのだろうか、奴らに追いつかれることなくまくことができた。
 標高は低く、整地は簡単にされているが、道がそれなりに入り組んだ学校の裏山。
 俺は何度も入ったことがあるが、奴らはない。なので、まくのは非常に簡単であった。
 奴らは反対側から下山するなり、戻って教師に捕まるなりしてしまえばいい。
 ただ、万が一にでもまだ探しているのであれば、俺が下山して鉢合わせしてしまったら洒落にならない。
 なので、山の一部を切り開いて作られた公園に俺は潜伏することにした。
 ここににいれば見つかる可能性もあるだろうが、すぐに逃げることができるからな。
 落下防止用の柵に背を預けて、公園の全貌を見渡してみる。
 夕日色に輝く遊具たち。
 劣化するごとに取り替えられては、ここにやってくる子どもたちを出迎えてくれる遊具。
 俺が小さい頃もよくやってきたものだ。
 しかし、その頃あった遊具は存在せず、新しい物へと変わってしまっている。それでさえ、ところどころ塗装が剥げ、錆びてしまっている部分もある。
 今は小さい男の子が一人、三輪車で敷地を走り回っている。もう少し生徒もいると思ったんだがな。
 結構いいスポットとも聞く。
 ともかく、昔の子どもは高校生で、今の子どもはいずれ高校生になる。
 ゆっくり変化をしている。ゆっくり、な。
 奴らが追ってくる気配がないので、身体を反転させて、柵の向こう側を臨む。
 高くない山いえど、ここから見る街並みは絶景である。これは俺が小さい頃から変わらない景色。
 オレンジ色に輝く街。小さい頃はこの景色になったら、母に連れられて帰ったものだ。
 今はもうそんな歳ではない。
 その頃から見てる景色は変わらない、変わらないようで実は変わっている。
 家がマンションになったり、空き地がビルになったり。
 大きく見れば変わっていないように見えて、細かく見れば本当は変わっている。
 そのことに気が付きにくいのは、この公園も街並みも変わらない……わけか。
 少なくとも、その景色はいつになっても好きだ。これは変わらない。
 俺が男というのも変わるわけがない。
『男であることを後悔するんだな!』
 この言葉が俺に突き刺さる。
 そんなことわかっていた。
 新入生のための準備や片付けで力仕事を任されるのはいつも男子。
 責任が重くのしかかるのも男子。
 俺にはそんなものをつきつけられたって、潰れてしまう。
 だったら、俺は女で産まれてきたかった。
 そりゃ、力仕事や責任から完全に逃れられるわけではない。でも、少しだけ、生きやすい。そんな気がする。
 無いからこそ、言いたい。一度でいいから、
「ああ、女になってみたいなぁ……」

 ――ふわり。

「――ッ!?」
 一瞬。一瞬だけであったが、身体が宙に浮かんでしまいそうな錯覚に襲われた。
 なんだ? オレンジ色が眩しくて眩んでしまったのだろうか。
「――五時になりました。よいこのみなさんは暗くなる前におうちに帰りましょう」
 それと同時に、毎日決まった時間に流される街の放送が耳に届く。
 録音でなく、毎日生で声を放送しているというから驚きだ……でも、今日は珍しく男性だったな。そんな日はあっただろうか。
 まあ、たまにはあってもいいだろう。
 それにしても、この放送は余計なお世話である。
 これで帰るのは小学生くらいであり、それ以上の年齢になれば毎日鬱陶しい放送にさえ聞こえる。
 そうして、俺たちは心が汚れていってしまうのだろう。少しずつ、わからない速度で。
 よくない変化に気がついてしまうのは寂しいものだよな。でも、これから心を綺麗にするのは無理なのも確かだ。
 さて、だいぶ時間も経ったんじゃないのか?
 奴らの気配すら感じないし、そろそろ帰るか。
 街も紫色に染まってきたから、もう一度身体を反転――
「お? ……え?」
 回転した身体、視線に入る謎の物体、そしてこんなに声は高かったっけ?
 全てが謎だ。なんか、自分の身体でないような錯覚。しっくりこない感じ。なんだ? なんだ?
 謎の物体は俺の頭にくっついているかのように、はらりと停止した。
 手に取ってみると、長い。黒くて長くて細くて柔らかい……髪の毛!?
 俺はこんなに長くは伸ばしていないはずなのに。
 風が吹けば下半身が寒い。
「――ッ!?」
 下に顔を向ければ大量の髪の毛がバサッと落ちてきて、視線を覆う。隙間から見えるのは、ありえない光景。
「なんで、俺はスカートを履いているんだ?」
 暖色のチェック柄のそれ。
 東高校、女子の制服。
 ついでに、詰襟からブレザーにも変わっている。
 声が高い、髪が長い、スカートを履いている、血の気が引く。
「な……」
 何がどうなっていやがるんだ。
 挙動不審な動きをしていたからか、近くにいた男……女の子がコチラへと寄ってきた。あれ、男の子はどこに行った?
「お姉ちゃん。どうしたの?」
「……」
 決定的な一言であった。
 わかっていた。わかっていたよ。でも、信じたくはなかった。なかった。

 ――俺が女子になっている。

 ということに!
「……ほら、もう遅いから帰りなさい」
「はーい!」
 とりあえず、女の子は帰るように促す。
 にしても、小さい子なのに一人でここまで来たのは大したものだ……じゃなくて。
 確かに、俺は『女になりたい』と思ったよ。思ったけど。
 なぜ突然、俺は女になってしまったんだ!
 なるのであれば、池に落とした斧よろしく女神様とかそういう存在が出てきて、なる・ならないで選択させてもらえるもんだとてっきり思っていた。
 そもそも、こんなSF(すごく不思議)な事象が起きてたまるか。こんなのは、小説や漫画の世界の話だけじゃないのかよ!
「お姉ちゃん、バイバーイ!!」
「……くッ」
 振られた手を返す。返すが、俺の心にトドメをさしてくれた感が否めない。
 あの子は大丈夫だろうが、俺はダメかもしれない。
「しかし、な」
 とりあえず、家に帰るか。
 暗くなるというのに、こんなところにいてもられないからな。
 スニーカーからローファに変わってしまった足を運んで。
 こんな姿を親が見て何というもだろうか……すごく、気が重い。
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